上月探偵の怪談


*ひとつめ
「僕かい。僕はねえ、まぶたのない死体を見たことがある。切られたまぶたはね、左右とも綺麗にたたまれた懐紙にくるんで枕辺においてあったよ。律儀なものだね。
 小さな集落の話しでね、到着した時すでに犯人は捕まっていて、僕は出るヒマもなかった。
 なんでもそこの長男が死体を見た途端恐ろしい勢いでそれに掴みかかって目をえぐり取ろうとしたというのだ。この長男がね、奇妙なことを言い出した。いわく「僕はまぶたを切り取ってなんかいない」とね。当然だ。そもそも彼はねえ、相手の口に布を詰めてめった刺しにしたんだよ。怨恨でね、ちょっとやそっとじゃ死なない大きさの刃物で、刃渡りは――あ、そっちの話じゃなかったか。
 じゃあなんだ、まぶたを剥がしたのはどいつなのか。なぜそんな行為に及んだのか? 見ていた家人全員が揃って言うのだよ。
『死んだお父さんの目玉に長男の姿だけが写真みたいに写りこんでた』
 とね。
 おっと長くなってしまったね、一つ目の話はこんなところだ。
 でも――死んだ当人がまぶたを切り取って置いたとして、死んでなお動くのならばそれは死者のくくりに入れていいものなのかな?」

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*ふたつめ
「ツイッターで一時期人探しのつぶやきがよく流れていただろう。
 近頃はストーカーや誘拐犯の場合もあるから迂闊に情報を与えないようにとかでめっきり見なくなったが僕はああいうの大好きでね、片端から検索してリストに放り込んでは経過を眺めていたものだ。  そんな中の一件でね、親がある少女を探しているというつぶやきがあった。彼氏とデートに行くとかだったかな? 一週間くらい帰ってないってさ。ちょっと面白そうだったから進捗眺めていたんだけど、結局一ヶ月くらいしてから画像付きで「無事見つかりました、ありがとうございます」っていうつぶやきを最後にそのアカウントは更新されなくなったんだ。
 まあお察しの通り添付された画像には開いた冷蔵庫の中で腐りかけた遺体が載っていたのだけどね。
 不思議なのはそのあと報道されたところによると遺体が見つかったのはどうやら彼女の自宅の冷蔵庫らしいんだ。単なる推測だが、もしかするとあの少女を探していたのは親ではなく恋人だったのかもしれないね」

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*みっつめ
「こんな話がある、いわく鏡は死後の世界に通じるというやつさ。まあ失敗談なのでね、あまり積極的にやりたい話ではないがこういった集まりもそうそうないだろうからね。長くなるけどまあ戯れに聞いてくれたまえよ。
 女の子がね、一ヶ月分のお小遣いを片手に僕に相談を持ちかけてきたことがある。いわく彼女の部屋がある日を境に左右反転した、とね。詳しく聞けば、彼女には夢遊病の気があるようだ。ある晩だれかに起こされて、ゆめうつつに部屋から連れ出された。いくつか家の中をあちらこちらと連れ回され、気づいたら朝だったそうだ。
 その日を境に、彼女の部屋は鏡に写したようにものや扉の配置が反転してしまった。ところが、家族や友達はまるでもとからこうだったみたいな言い方をするというんだ。
 僕もなんだか肩入れしてしまってね、なんだかんだひと月くらいはそれについて調べていたかなあ――ある日、彼女が遠くから僕を見つけたらしくて、うれしそうに声をかけて走ってきた。ちょうどそのとき、信号無視でつっこんできたトラックに当たって死んでしまったんだ。

 それでまあ、冒頭の話を思い出したのだけどね。彼女は僕に相談するより少し前から、すでに死んでいたか、それに近い状態だったのかもしれないな、とね」